
心に深い傷を負った元シェフの健は、何もかも捨てて富士の裾野に移り住んだ。唯一パラグライダーだけがよりどころであり、そのスクールで出会った瑞穂を愛するようになる。しかし、そんな矢先二人は空の上で激突するという大事故にあい―。
『いちげんさん』のデビット・ゾペティによる、初の長編小説。
舞台が朝霧高原や西湖ということで、私にとって馴染み深い場所。車で富士五湖に行く時、そういえば朝霧でパラグライダーを目にする。けれど、場所に親しみが持てても、パラグライダーにはまったく興味がないので、ふんだんに盛り込まれた解説に途中で飽きてしまった。
私は『いちげんさん』も『アレグリア』も好きで、しばらく新作にお目にかかれなかったことから、とても楽しみにしていたのに。叙情的で切ない恋愛ものとして読めたらよかったのかもしれない。しかし、パラグライダーありき、恋愛で肉付け……。私の読み方が悪いのか。
■ここから内容に触れます■
私は瑞穂という女性が嫌いだ。
途中で飽きてしまった原因の一端はそれ。なぜなら、婚約者と健を手玉に取っていると感じてしまったからだ。どちらの男性も等しく大切に思う気持ちはわかる。けれど、瑞穂の場合、現実的な面では婚約者、休日などでリフレッシュするには健と、自分の都合で揺れているとしか思えなかった。どちらも捨てるには惜しい。できればこのままの関係を続けていきたいというのが透けて見えてしまった。さらに、事故後、下半身不随になってしまってからもそれは続く。そして、それを許す健にも、許せず健のログハウスまできて怒りをぶつけた婚約者の心の変化にも、とうてい納得できない。
瑞穂って、そんなに魅力的なのかな?
上にも書いたが、パラグライダーありきのため、事故後の瑞穂の心の葛藤には、ほとんど行を割かれていなかったのも、私にはつまらなかった。重大な障害を負ったのに、半年で復帰した瑞穂の苦労を、婚約者の言葉だけで読まされても全く感じるものがない。もちろん、その部分が主題ではないということを理解していても。
■ここまで■
興味のないものがテーマだからか、登場人物に好感が持てなかったからか、とにかく残念。
★★