追憶のかけら
貫井 徳郎
アメリカのドラマ『24』にはまっています。
そんな展開ありえない〜と思いながらも、次から次へと訪れる艱難辛苦にドキドキ。
緊迫感をこれだけ持続させられると、終了したときの虚脱感も相当です。
本の感想に何故ドラマの話から入ったかといいますと、
両者に少し共通点があったから。そして、それこそが私がこのドラマにはまった最大の理由でもあります。
それは、どちらも主人公以外の登場人物の誰を信じたらよいのかわからないということです。
まったくノーマークだった人が実は・・・みたいな展開に、一々振り回される自分にイライラしながらも、それ故に真相が余計に気になるという状態。
この本の主人公松嶋は、あることから実家に帰ってしまっていた妻を、不慮の事故で亡くしてしまった大学講師。
同じ大学の教授である義父ともぎくしゃくし、預けている娘も迎えに行けずに、これからのことをただ悩むばかり。
そんな時、あまり知られていないが戦後自殺した、ある作家の未発表手記が松嶋の元に持ち込まれる。
これはやっと自分に巡ってきたチャンスと思った松嶋は、手記を発表する条件として提示された、手記の中の謎を解くことを了承する。
まったく内容を知らずに読み始めたものの、あっという間に引き込まれてしまう小説でした。
途中の作家の手記が長く、旧かな遣いということもあり、最初は読みにくかったのですが、慣れるとそれも気にならず、書かれた悪意の存在がなんとも不気味でありました。
そして、松嶋を襲ったものもまた悪意。
人の善意と悪意の間で翻弄される主人公とともに、読んでいる私もしっかり振り回されてしまったというわけです。
国文学の講師の一人称らしい文体もまた雰囲気作りに大変有効でした。
人は自分の与り知らぬところで、どんな恨みを買っているかわからない。たとえ、それがどんなに理不尽なことだとしても。
そんな薄気味悪さと怖さを存分に味わいながらも、読後感の非常に良いという稀有な作品ではないでしょうか。