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篠田節子 『マエストロ』
マエストロ

完全な勘違いをしたまま読み始めた。私はもうてっきりミステリだと思っていた。高価なグァルネリが盗難にあったりして、そこに隠された秘密が暴かれるとか、陰謀が潜んでいたとか……。実際盗難にはあうが、主人公の性格を浮かび上がらせるだけで、物語上あまり重要とも思えないエピソードだった。
結局この物語は、女性ヴァイオリニストの成長ものだった。これは私が悪いので何も言えない。篠田節子だもの、ミステリじゃなくてあたりまえだったのだ。けれど、それとは別に、主人公がどうにも好きになれない女性で、なんだろう鼻持ちならないというか、世間知らずでプライドが高いというか。すべての演奏家がそうというわけではないと思うが、これを読むと、演奏家、特にソリストはこんな人ばかりなのかと素人の私は考えてしまい、ファミレスなど飲食業のアルバイトをしたら、そういう店の料理を食べることに抵抗が生まれてしまったというのと同じような気持ちになる。
要するに裏側は知らない方がいいということだ。けれど、私もそこまで単純ではないので、そう考えてしまってもおかしくないよ、という程度だけれども。

成長ものとしては、瑞恵はずいぶんな代償を払うことになってしまった。自分の腕で勝負している人に大切なものってなんだろう。
プライドだろうか。練習や経験も当然大切なものだろうけれど、それは腕を磨き維持していく手段だろう。本当に大変なのは、精神的なもの。ずっと保ち続けねばならないプライドだと感じた。そこに疑問を持っていた瑞恵が、それを取り戻すまでを、初期の作品とはいえ篠田節子らしい重みのある文章が支えていたように思う。自分の足だけで立ってやっていく決意をした瑞恵の姿は感動的だが、しかし読み方を間違えた私には物足りなさが残り残念だった。

1992年9月刊行の単行本『変身』を改題

★★★
| 読書 小説 | 22:43 | comments(0) | trackbacks(0) | ↑TOP
山本幸久 『幸福ロケット』
幸福ロケット

香な子は小学五年生。小石川のマンションに住んでいたけれど、新学期から葛飾区お花茶屋のアパートに引越してきた。お父さんが会社を辞めて、お母さんの実家の工務店に転職したからだ。両親は仲が良く、ずっと一緒に居たかったからだと言うが……。ちょっと気になる同じクラスの男の子、コーモリとの初恋物語。

 かわいくて、すごく切ないお話。
「子どもは知らなくていいの」って、大人は思うし、実際口にする。香な子の家もそう。香な子視点の話だから、最初は香な子の知って(理解して)いることを中心に話が進む。だから読者も、疑問に思いながらも、ちょっと風変わりな両親だな〜なんてのんびり読んでしまう。でも、まだ決まらない将来のために、頑張って塾に通う香な子の心は確実に大人へと成長してきていて、コーモリや塾の嫌な子、そして担任の先生などと接するうちに、どんどん外に向かっていく。たくましく。

 ユーモアのある文章で、とてもかわいらしい小学生の物語に仕上がっていた。ちょっと小学生にしては大人な部分もあるかとは思うけれど、幼すぎるより良いと思う。

 コーモリとの恋は、やっぱり予想通りちょっと切ないものになってしまったけれど、いつか自分の意思で好きな人と一緒にいられる日がきっと来るはず。未来を楽しみにできる物語だった。

 著者の長編は追いかけてきたけれど、短編集の『はなうた日和』は未読。短編苦手なので……。でも、これは読んでおいた方がよさそう。
 今、かなり気になる作家。

 そうだ。
香な子は読書好きで、図書館に通っていろんな本を読んでいる。その中でよく出てきたのが、星新一。私も、星新一は香な子と同じ五年生のときにまとめて読んだ。なんだかとっても懐かしかった。

★★★★
| 読書 小説 | 12:54 | comments(4) | trackbacks(2) | ↑TOP
鳥飼否宇 『激走 福岡国際マラソン〜42.195キロの謎』
激走 福岡国際マラソン―42.195キロの謎

マラソンを舞台にスピード感溢れるミステリ
北京オリンピックの代表が決まる福岡国際マラソン。有力選手、外国招待選手、そして有望視されている新人など各ランナーの思惑が錯綜する。そのなかで実力がありながらペースメーカーとして出場する市川。彼もまたこの福岡にひとつの思いを持っていた。(中略)モノローグのように、各選手の過去が綴られ、次第に謎が明らかにされていく。勝負はトラックまでわからない。そして最後の直線100メートルの激走がその答えを出した。(amazonより)

 本格ミステリの定義は、人によってさまざまのようですが、本書もその一冊に数えていい作品だと思います。
 といっても、基本はフルマラソン中の選手の思考や駆け引き。主だった選手は五人で、それぞれの過去や思惑が錯綜しながらスタートするわけですが、ある事件が起こっても、どこからか颯爽と探偵が現れるというわけではありません。 なにしろ、たった二時間の間に起こる出来事なわけです。しかも選手は立ち止まることなくどんどんゴールを目指して進んでいってしまう。ひとつの目立つ事件の規模も大きくはないものなのです。

 しかし!
レースも終盤に差し掛かった頃、私の頭に一瞬のキラメキが起こり、それまで不思議だったことがすべて氷解していきました。そうか、あれもこれも全部伏線だったんだ!って。物語全体に仕掛けられた謎と、散りばめられた伏線の数々。これが本格ミステリでなくて何なんでしょう!
 注意深い読者であれば、かなり早い段階で見抜ける謎でもあるので、そのあたりで評価は変わってきそうですけれども。

 中盤から、「のどが渇いた のどが渇いた」「どうして走っているんだっけ どうして走っているんだっけ」といったように、何度も何度も言葉の繰り返しがあります。これは、マラソンのスピード感、選手の疲労感を出すためだと思われますが、成功していると思います。特に、私のようにマラソンについての知識が貧弱な読者には有効な手段。疲労感がよく伝わってきました。

 横山秀夫『半落ち』のときに起こった論争のように、事実と違う(あるいはかけ離れている)小説は認めぬ、という意見もありそうな予感。マラソンランナーやマラソンという競技に対する認識が甘いところがあると、素人の私でも思うからです。けれど、この小説はそれでかまわないのです。というより、そんなこと、著者の鳥飼さんも充分承知の上でしょう。

 実はそれほど期待して読み始めた本ではなかったのですが、とても満足して読み終えることができました。
 おもしろかった!

★★★★
| 読書 小説 | 22:50 | comments(0) | trackbacks(2) | ↑TOP
二階堂黎人 『カーの復讐』
カーの復讐

古代エジプトの秘宝≪ホルスの眼≫という名のメダリオン。この素晴らしさに心魅かれる男がいた。その名は怪盗アルセーヌ・ルパン。彼はそのお宝を頂戴するために、発掘者ボーバン博士に近づくが、博士の居城≪エイグル城≫で、ルパンを待ち受けていたのは奇妙な連続殺人事件だった。(amazonより)

 著者の本は初めて読みました。
ミステリーランドでなかったら、たぶん……この先もずっと手を出さなかったかな〜。読まず嫌いとかではなく、ただきっかけがなかったからだけなのですけどね。

 内容は上記アマゾンの紹介文通り、怪盗ルパンの物語でした。二階堂さん自身がフランスの古書店で原書を発見して翻訳したということで……。
 密室・館・財宝・魅力ある探偵役・意外な真犯人といった、本格ものとしての要素を充分に備えたストーリーで、これこそミステリーランドにふさわしいものでしょう。

 ただ私は読んでいて、ちょっと他のことを考えてしまいました。二階堂さんに限らずミステリ作家や、ミステリを好んで読んでいる人は、子どもの頃、ルパンやホームズ、乱歩あたりからみんな入ったのかなぁということです。私はそういう基本をまったく押さえてこなかったのです。せめて子どもシリーズ(?)のようなものでも読んでいればよかったのだけれど。
 そして、最近の小学生とか中学生は、ルパンとか読むのかなぁ……って。
もし読まないのであれば、この『カーの復讐』は、その代わりになるのかなぁとか。
 そんなようなことを、つらつらと考えながらの読書だったというわけです。

 二階堂さんの描くルパンはなかなか魅力的でした。本家を知らない私だけれど、このルパンの物語をまた読みたいです

★★★
| 読書 小説 | 22:32 | comments(0) | trackbacks(0) | ↑TOP
三崎亜記 『バスジャック』
バスジャック

「二階扉をつけてください」「しあわせな光」「二人の記憶」「バスジャック」「雨降る夜に」「動物園」「送りの夏」

 美しい。

「二階扉〜」や「バスジャック」なんかは、『となり町戦争』の流れを汲む物語。
 自宅の二階に扉を付けることが常識になっていたり、バスジャックがブームになり、バスジャック正常化委員会なるものができていたり、突拍子のない設定を前提として、架空のお知らせや法律を作り上げた中での話というもの。特に「二階扉〜」は、『となり町戦争』と同じように、主人公が周囲の常識をまったく理解していなかったことから物語が始まる。だから、矛盾する言葉だけれど、現実的なファンタジーが好きならば、とても面白く感じる話だと思う。
 でも、やはり『となり町戦争』が(私は)傑作だと感じているので、失礼ながら亜流の域を出ない。
 その他、「しあわせな光」「雨降る夜に」などは、不思議物語だが心暖まる物語で、ショートショートに近いが余韻が残る良い話だった。

 最初に記した、美しい、という言葉は、最後の二編「動物園」「送りの夏」に対してである。読み終えて、ぼぅっとその余韻に浸り、思うことはいろいろあるのに言葉が浮かばない中で、一番に出てきたのが、その美しいという言葉だった。どう感想を書こう……と悩み、自分の『となり町戦争』の感想を読み返してみて、静謐という言葉を見つけたけれど、それが近いかな。
 特に「送りの夏」。
誰かを失うことへのけじめのつけ方はひとそれぞれなのだ (p217)
 人の死というものを知ってはいても、初めて言葉ではなく自分の肌ではっきりと死を感じた小学生の麻美の物語。
 お葬式は忙しいくらいがいい。それは、悲しみを感じる余裕をなくさせるから。こんなことをよく聞く。確かにそれもいい。直後の悲しみを忙しさで多少でも紛らわせ、静かになった頃から心の整理をするのも。けれど、そんな人ばかりでないことがあったっていいじゃないか。それだけ、誰かの死までの生活と別れにはいろんな種類があるのだから。こんな風に言葉にしてしまうと、あたりまえのことを読まされている気分になるかもしれない。それはひとえに私の文章力のなさゆえであって、ぜひ読んでそれぞれの心で感じてもらいたい。
 生と死は対のようだが、実は直線上で繋がるもの。主人公の麻美を通して改めて伝えられたことだった。

 凪の物語。
いつかまた風は吹く。波の高い日もあるだろう。そんな物語。すばらしかった。

★★★★
| 読書 小説 | 22:14 | comments(2) | trackbacks(2) | ↑TOP
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